社報shinko〜親交〜 2019年12月号

化粧品のスペシャリスト、高橋さんに聞く! 美容のあれこれ
■冬場のスキンケア

乳化分散技術研究所® テクニカル・ディレクター 高橋 唯仁

大手化粧品メーカで長年従事されてきた化粧品のスペシャリスト、乳化分散技術研究所® 高橋さんの美容コラムです。肌の水分バランスを保つキーワードはずばり「角層」!


みなさん、お久しぶりです。乾燥が気になる季節になりましたね。冬場は屋外ばかりでなく、室内でも暖房のため空気中の水分が減少して、非常に乾燥した環境になります。そうすると肌はカサカサ、くちびるもガサガサ、髪の毛もパサパサ、静電気はバチバチ……困ったもんです。というわけで、今回は厄介な冬場の乾燥から身を守るスキンケアについてお話したいと思います。

図1:皮膚の構造(模式図)

まず、皮膚の構造を復習します(図1)。皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織(脂肪層)の層状構造になっていて、それぞれ役割が違います。2016年4月号で、肌のぷるぷる感は真皮層のコラーゲン繊維が演出していることをお話しました。今回お話するのは皮膚の保湿機能です。それを演出するのは、真皮の上にある表皮のうち、一番外側にある角層(角質層とも言います)という厚さ約100分の1ミリ程度の薄っぺらい部位です。薄っぺらいとはいえ、角層は非常に丈夫な組織であり、外界との境界線として体内の水分を逃がさないことや、紫外線、細菌、アレルギー物質などの外部刺激から身を守ることなど、生命維持のために非常に重要な役割を果たしています。これを角層のバリア機能といいます。
表皮は、ケラチノサイト(角化細胞)という細胞でできていて、最下層にある基底層から常に新しい細胞が供給されています。それらは少しずつ性質を変えながら約4週間をかけて順次分裂しながら皮膚表面へ移動していき、最終的に分裂が止まった細胞が垢となってはがれ落ちます。この現象を皮膚のターンオーバーと言います。健康な細胞では、このターンオーバーを繰り返しながら細胞が常にリニューアルされて、皮膚は常に一定の厚さを保っているのです。角層は、表皮の最も外側で垢になる一歩手前の死んだ細胞が集まってできています。角層部分を拡大すると、図1の右側の図のようなレンガを積み上げたような構造になっていて、通常の皮膚では20層ぐらい重なっています。これをブリック&モルタルモデルといいます。レンガに相当する部分が細胞で主にタンパク質でできています。その隙間をモルタル状に埋めるのがセラミドやコレステロールなどの脂肪分です。角層が丈夫な理由はこのしっかりした構造にあります。
角層に蓄えられたタンパク質は、さらに酵素の働きによって分解され、アミノ酸やその代謝物に変化します。この分解物の一部は保湿に深く関わっていて、天然保湿因子(NMF)と呼ばれています。NMFにはアミノ酸やアミノ酸代謝物のほかに乳酸などの有機酸やミネラルなどが含まれ、これらの働きで角層は常に20〜30%の水分をキープして柔軟性を保っています。ところが空気が乾燥してくると角層の水分は蒸発しやすくなり、水分が足りなくなると分解酵素もうまく働きませんから、NMFの量も減ってきます。その結果、保湿機能が低下して肌はダメージを受けやすくなり、さらに潤いを失って肌荒れの原因になります。

では、冬場のスキンケアはどうしたらよいのでしょうか?
ひとつの答えは「肌を乾燥した環境に置かないこと」。少なくとも暖房のきいた室内では加湿器が必需品です。しかし普通に生活していたら当然外出もしなければいけませんから、常に加湿器のお世話になるわけにもいきません。そこで、もうひとつの答えは「水分バランスを保つために、健康な皮膚が普通にやっていることを真似すること」です。これはどういうことかというと、皮膚というものは実にうまくできていて、図1に示す汗腺(エクリン腺、アポクリン腺)および皮脂腺からそれぞれ分泌される汗と皮脂が、皮膚表面でいい感じに混ざり合うことで天然の保湿クリームになるのです。これを皮脂膜といいます。この皮脂膜が皮膚表面にフタをすることで角層の水分を守っています。このように乾燥が気になるなと思ったら、水分補給と同時にNMFや皮脂に相当する成分を補って水分が逃げないようにすることが必要です。市販されているスキンケア化粧品もこの考え方がベースになっています。一般にNMFに当たる成分をヒューメクタント、皮脂膜に当たる成分をエモリエントといい、ヒューメクタントとして保湿剤、エモリエントとして油分が配合されて、それぞれが乾燥によって不足している水分、NMF、皮脂を補う働きをします。その様子を図2に示しました。

図2:皮膚のモイスチャーバランスの概念図と対応する配合成分例

通常の肌については、化粧水や保湿美容液で水分と保湿剤を補い、乳液や保湿クリームで皮脂に相当する油分を補うことが、水分バランスを整えて乾燥から身を守る基本になります。 同じく冬に乾燥しがちな手やくちびるの保湿はさらに厄介です。油断していると顔よりも乾燥しやすいので、カサカサを通り越してひび割れを起こすこともあります。それは、皮膚には部位差があって、角層の厚さなどが微妙に違っているからです。例えば、手やくちびるには皮脂腺や汗腺がほとんどありません。そのおかげで皮脂膜ができないため、エモリエント効果がほとんど期待できず、何もしないと角層からどんどん水分が逃げていきます。掌は角層が比較的厚い部位で水分はあるのですが、ガラスに手をあてると一瞬にして曇ることからして、水分が失われやすいのがよくわかります。くちびるに至っては、中の血液が透けて見えるほど角層が薄く、保湿機能自体があまりありません。唾液で常に湿っているので水分を保持する必要がないからです。ですから、乾燥するとマメにリップクリームを塗って水分を守るなど、通常の皮膚以上のケアが必要です。

以上、冬の乾燥対策を化粧品の立場から簡単におさらいしてみました。重要なのは角層を健康に保つこと。もちろんセラミドなどモルタルの補給も大切です。顔も、手も、くちびるも正しいお手入れをして、乾いた冬を乗り切りましょう!

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