社報shinko〜親交〜 2016年04月号

化粧品のスペシャリスト、高橋さんに聞く! 美容のあれこれ
■コラーゲンの真実その1

乳化分散技術研究所® テクニカル・ディレクター 高橋 唯仁

大手化粧品メーカで長年従事されてきた化粧品のスペシャリスト、乳化分散技術研究所® 高橋さんの美容に関するコラムです。お肌の状態が気になるみなさん、必読ですよ!


今回はスキンケアの話をします。スキンケアといえばコラーゲン。いまどきコラーゲンの名前を聞いたことがない人はいないでしょうし、肌に良いらしいということも大概ご存知だと思います。しかし、コラーゲンのスキンケア効果についてちゃんと説明できる人は意外と少ない。化粧品関係者でもここらへん、あやしい人が結構いるのです(笑)。そこでまずコラーゲンとは何かから始めたいと思います。

コラーゲンは、人間の体内で最も量の多いタンパク質。特に皮膚、骨、軟骨、血管などに多く分布しています。細胞と細胞をつなぐ接着剤のような働きがあって、器官を形作るために必要不可欠な材料です。タンパク質は、アミノ酸がひも状につながったものです。コラーゲンの場合、約1000個のアミノ酸からなる長〜いひもが3本からまって三つ編みのような形をしています(図1)。これをコラーゲンの三重らせん構造といいます。この三重らせんがさらに何本か集まって丈夫な繊維になります。これが弾力の秘密です。皮膚を輪切りにすると、上から表皮、真皮、皮下組織(脂肪層)の多層構造になっています(図2)。コラーゲンが存在するのは表皮の下の真皮層。ここでは線維芽細胞がコラーゲンの工場となり、ヒアルロン酸、エラスチンなどとからみあうことで、クッションのような独特のぷるぷる感を演出しています。繊維がからみあって弾力を出しているところは、トランポリンと似ていますね。

図1:コラーゲンの三重らせんと繊維状構造図2:皮膚の断面図

コラーゲンを多く含む器官には共通の特徴があります。それは老化の影響が顕著に現れることです。皮膚の老化によるしわやたるみ、さらには年齢とともに骨がもろくなる、関節が痛い、血管が硬くなるといった症状は、いずれもコラーゲンが減少したり性質が変わったりするために起こるものです。コラーゲンの減少は美容の敵であると同時に、非常に恐ろしい病気の原因にもなり得るのです。こういう事実が世間に浸透し始めるにつれて、「年齢とともに減少するコラーゲンを補いましょう」という流れになってきました。その結果、サプリからコラーゲン鍋に至るまで数々の商品が生まれています。少なくなるものを補うのは至極ごもっともな方法論なのですが、果たしてこれで良いのでしょうか?専門家、学識経験者といわれる人々は、世間のこういう流れを実に冷ややかな目で見ています。なぜなら、この理論には大きな前提条件が抜けていて、致命的な論理の飛躍があるからです。その前提条件は何かというと、食べたコラーゲンはそのままコラーゲンとして身につくのではないという事実です。

実際、食べたコラーゲンはどうなるのでしょうか?(図3)まず、生コラーゲンは繊維状ですから水にほとんど溶けません。ですから、そのまま食べてもほとんど消化吸収されずに排泄されることになるでしょう。では調理した場合どうなるかといえば、コラーゲンは40℃以上に加熱すると、繊維構造が崩れてしまいます。この三重らせんがバラバラになったものは、もはやコラーゲンとはいいません。ゼラチンといいます。トランポリンの繊維がほどけて反発しなくなった状態と同じですね。ゼラチンはゼリー状ですから、食べると消化吸収されるようになりますが、消化によってアミノ酸に分解されていますから、元々のコラーゲンは影も形もなくなっています。なので、コラーゲンを食べたら即お肌がぷるぷるになったというのは、残念ながら気のせいであると言わざるを得ません。

図3:コラーゲンの変性と消化

では、肌に直接塗るコラーゲン配合化粧品はどうでしょう?コラーゲンは真皮に存在して、あのぷるぷる感を演出しているといいました。言い換えると、ぷるぷる感を出すにはコラーゲンの形で真皮まで送りこむことが必要です。ところが、その上にある角層は大変頑丈なバリアですから、元々コラーゲンのような大きな分子を通さないようにできています。分子の大きさは分子量という単位で表します。コラーゲンの分子量は約30万です。角層を通して皮膚に浸透できるのは分子量500以下といわれていますから、到底入れるのは不可能です。ですから「浸透実感」も実は気のせいです。私も昔、電気や超音波の力で、生コラーゲンを強引に真皮まで送り込むことにトライしたことがありましたが、残念ながらうまくいきませんでした。そのくらいの力をかけても皮膚からコラーゲンを入れるのは至難の業なのです。

というわけで、コラーゲンを外から摂取することによるスキンケア効果ついては疑問符というのが専門家の共通した意見です。これに対して、商品を提供する側も「個人の感想です」という但し書きを付けて、特に明確な反論はしていません。大前提として、コラーゲンは外から与えるものではなく、自ら作り出すものであると覚えておいてください。コラーゲンを摂取することは、それを作り出すためのタンパク源を提供しているにすぎません。化粧品を選ぶ場合は、「コラーゲン配合」ではなく、「コラーゲン産生促進」というキーワード、すなわち自らコラーゲンを作ることの助けになる製品を選ぶのがポイントになります。コラーゲンを作り出すには、タンパク質と同時にビタミンC や鉄分なども必要ですから、コラーゲンにこだわることなく、必要な材料をバランスよく補給することがスキンケアの基本です。

以上、今回はコラーゲンに対して実に冷たい態度になってしまいました。しかし、一方で科学の進歩は常に新たな事実を提供してくれます。コラーゲンを食べた後のぷるぷる感は、あながち気のせいでもなさそうというのが最近わかってきました。次回は、コラーゲンて実はすごいんですという話をしたいと思います。お楽しみに!

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