Today's Notables 2003年10月

霊峰 御嶽山にて精神鍛錬(2)

代表取締役社長 古市 尚


最近はトレッキングなるものがある種の流行で、年輩の方々も運動のためにハイキングや登山をすることが増えていると聞くが、時折新聞などでは「ハイキング気分で遭難」や「あまりにも軽率な山登り」などと書かれた記事を目にすることもある。甘く見てはいけないと思い、出発前の日曜日にあわてて神保町へと向かった。さすがにアウトドアブームで学生時代、スキー屋に通ったころの神保町とはすっかり様相が変わっていた。ちょっとお洒落なアウトドア専門店に入ったが、靴売り場には登山靴を試乗?するちょっとした、急勾配や石をゴロゴロ転がした登山道シミュレーションまでが備わっている。店員の若い女性に事情を話し、相談に乗ってもらったら、後はもう「カモが葱をしょってきた」状態で、至れり尽せりのアドバイスをもらい、言われたものを全て買った。トータルでは一級品のドライバー(ねじ回しではなくゴルフの)が買える値段だったが、遭難してからでは遅いので、身を守るためだと思い切った投資をした。お陰様で現地ではプロのシェルパやヒマラヤニストの方に、「ヒマラヤにでも行くの?」とひやかされた。が、何を言われようが準備万端が功を奏すると思い、リュックの中にはペットボトル4本、魔法瓶、ゴルフの雨具、ベスト、チョコレート、飴などを入れた。

話は前号の続きに戻り、「いよいよ出発だ!」
駐車場から最初はゆるい傾斜の地道が5分ほど続き、さっきまでは肌寒かったのにジワジワと汗がにじみ出してきた。傾斜が丸太で作られた階段へと変わり、さらに5分ほど歩くと汗がタラタラと吹き出してきた。「長袖は失敗したな」、「帽子もかぶらなきゃよかったかな」と考えていたら、肝心なタオルをリュックの中に入れてしまったのを思い出した。しかし、両手にはストックを持っており、一行はどんどん進むので、汗が目に入るのをこらえて歩くしかなかった。これが最初の苦痛である。その後、おそらく歩き始めてまだ15分も経っていなかったが、息が切れ、第二段階の苦痛がやってきた。休憩はいつですかと聞いたら30分歩いたらと言われたので、「ちょっとシャツを脱ぎます」といってかってに休憩を取ることにした。リュックからタオルを取り出したり、ポロシャツを脱いでいるうちに、第3班がやってきた。「もう追いつかれた」と思ったが、「ちょっとシャツを脱いでいたので……。」と言い訳をして「3班に入れてくださーい」(まだその時はそれぐらいの声を発する元気があった)と1班遅れてまた歩き出した。1班、2班はもう既に見えないくらい離れており、「追いつくのは無理だな」と悟った。登山道はますます過激になり、階段が急になってきたかと思えば、階段がなくなり始め、大きい岩がゴロゴロしている所へと差しかかって来た。30分経ったのか、1班、2班が休憩しているところへ、やっとの思いで追いついたかと思えば、「さぁ行くぞ」と1、2班は休憩を終えて出発してしまった。私はリュックがやたらと重く感じ、もうリュックを降ろしたくて仕方がない気分になってきた。計算からするとたぶん3kgぐらいのものだが、まるで誰かをおぶっているようにさえ感じる重さである。白装束の方も多いので霊がぶら下がっているのかとも思ったが、そうではなかったようだ。結局その苦痛が2時間ほど続き、残り400mという看板までたどり着いたので、もう少しだなという感覚が頭をよぎったが、最後の400mとうのはそんなに甘いものではなかった。おそらく100mぐらいごとに休憩をとり、残り400mのところから1時間ぐらいかかった。結局最後には一行の最後尾になってしまい、団体最高齢の67歳の方に着いていくのがやっとの状況だった。
頂上に着くと既にシェルパの方が全員分のコーヒーを沸かして待っておられ、昼食時のトン汁も準備が整っていた。しかし、そこは王竜頂上というところで3,000mは超えているものの、まだその上に本物の頂上があった。尾上会長が「ここまで来たんだから、あと15分ぐらい頑張って頂上まで行って来い」と何度も言われたがもう限界であった。ちょうどそのころ一行の50歳ぐらいの女性の方が本当に気分が悪くなったらしく、ぐったりとされていたので、皆が気を使って山小屋で横になった方が言いといわれていた。そこで私も「俺も高山病にかかった。もう限界で動けない」といったが誰も信じてくれず、ただの根性なしの烙印が押された。1時間ほどの休憩を終え下山することになったが、下りは息は切れないものの今度はひざがワライ、自分の思っているところでひざが曲がらない状況。しまいにはひざが痛くて、右を向いたり左を向いたりして、またまた苦痛の1時間が続き、やっとの思いで駐車場までたどり着いた。

あまりの大変さに景色も堪能することが出来ず、登山の良さは理解できなかった。というより3,000mからの景色はどうっていうことなかった。登山を愛する方々には申し訳ないが、私はシティボーイであり続けたいと思った。しかし、そんな苦痛な山登りも、感心したことがひとつあった。登山を好きな人はこんなことを思わないだろうが、私は今回の登山を通じて「集団の力」というものをしみじみと感じた。もし、一人だったら到底頂上まで登れていなかっただろう。あの人が、あの人でも頑張っている。自分に出来ないわけがないとムチを打つわけである。集団でこその力だ。おそらく会社も同じだろう。あいつが、あいつでもこんな力を発揮している。俺に出来ないわけがない。もっと頑張ってやろうと思うのである。「集団(会社)というものを身を守るために使っているふしのある人間もいるが、自分の力を120%、いや200%発揮するために使って欲しい。」と集団から離れ必至で追いつこうとする自分を見て感じた。正に精神鍛錬の霊峰登山であった。

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