Today's Notables 2004年02月

社員が活躍できる土壌作り(2)

代表取締役社長 古市 尚


昨年12月号のこのコーナーでの話を思い出して欲しい。日本には能力のある人間が十分に活躍できるフィールドがなく、優秀な人間が次々と海外へ行ってしまい、少子高齢化により労働力も減少するなど、日本の将来を危惧する話を書いた。ちょうどその後で村上龍著の「希望の国のエクソダス」という小説を読んだ。バイロンは“事実は小説より奇なり”と言ったが、現代の作家は経済学者や政治家の論述より遥かに事象を的確に捉えていて、“事実は小説のごとく奇なり”と改めた方がいいと思う。正に将来起こりえるだろう(もう既に起こっているのかもしれないが)社会現象が描かれていた。

話はCNNがアフガニスタン周辺で地元兵と共に、地雷処理をしている16歳の日本人少年にインタビューした衝撃的なニュースを放映したことからはじまる。レポーターの「何故ここに君がいるんだ?」「日本が恋しくはないか?」という質問に対し日本人少年は「日本のことは忘れた」「あの国には何もない、もはや死んだ国だ、日本のことを考えることはない」と答える。そのニュースに何かを感じた中学生は集団で不登校となり、連鎖反応でその規模が100万人にも達していく。大人たちは不況の中でいずれすべてが正常に戻るときが来るという、全く根拠のない期待を持つが、1年間の自殺者は10万人に達し、失業率は7%を超えていた。その中でフリーの取材記者である主人公が、不登校の中学生達のリーダー的存在であるポンちゃんと知り合う。ポンちゃんたちはインターネットを介して組織化し、世界の国々ともネットワークを通じて次々と事業を起こす。そして、その組織力や事業は世界の金融市場にも影響力を持つ強大なものに成長する。結局、ポンちゃんたちの組織が日本を金融恐慌から救うことになり、最後には北海道に理想の街を作り、通貨を発行するまでに至る。その中でポンちゃんは「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」という。

私はその文章を読んで、我々はそのような社会を作らないように努めなければならないし、少なくとも、手の届く範囲では「希望」が持てる組織を作らなければいけないと感じた。また、ポンちゃんたちの事業がどんどん成功していく描写を読みながら、ダーウィンの進化論である「強いもの、賢いものが生き残るのではなく、変化するものだけが生き残る」という言葉も脳裏に浮かんだ。

[希望の国のエクソダス] 単行本平成十二年七月 文藝春秋刊

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